湯内港岩盤崩壊
しばらく付加体関係が続いたので,ちょっと趣向を変えて...しかし,このカテゴリーも(おそらく)これが最後のネタとなってしまいました.
私が 1996年の豊浜トンネル崩壊事故の調査委員会にかかわったことでで,基盤工学との接点を持つようになったことは既に書きましたが,以下の話は,その事故調査の際に出てきた『周辺事例』の一つです.既に書いたワッカケ岬崩落もその一つですが...
写真は,余市町湯内港(豊浜港)西側の全景です.地質は豊浜トンネルと同じ尾根内層の水中火山岩(水冷破砕岩)類で,海側にゆるく傾斜する層理面を持っています.
露頭には,何本かの亀裂が見えますが,それに伴って小規模な崩落・崩壊が頻繁に起こっていることが分かります(中央右).
しかし驚くのはそういった小規模なものではなく,写真左はじに見えるでっかい崩落岩体です.
港内の防波堤の上から近接してまっ正面を撮ってみると,こんな感じになっています.要するに,露頭面にほぼ平行な剥離面に沿って,上部に樹木を載せた大岩塊がまっすぐ下に滑落しているのです.おそらく岩体の下部にはノッチがあったと思われますが,その空間も含めて岩体の脚部が押しつぶされています.
調査報告書によると規模は不明となっていますが,写っている自動車(今気付いた:真ん中に少し隠れて見えるのが私のレガシー)の大きさから適当に類推すると,少なくとも 30x20x10m = 6000 立方mはあるものと思われます.かなりの規模の岩盤崩落です.
この崩落がいつ起きたのかは不明で,住民への聞き取り調査では,1960年代には既にこうなっていたということで,それ以前ということになっています.しかし裏側の剥離面の状況とかを見ると,何千年も前のものとは到底思えません.
ちなみに写真右端に見えるコンクリート構造物は,旧道トンネルの擁壁だと思われますが,そのトンネルを作った当時は既にこうなっていたということなんでしょうね...
ということで,ワッカケ岬の大規模崩落が1994年冬で15,000立方m,1996年の豊浜トンネル崩壊が11,000立方m...このような地質地形では,このような程度の岩盤崩壊が百年オーダーで見ると数回は(定常的に)起きているということになるのではないかと思います.社会的問題とは,それが人命・財産に影響したものになるのかどうかということなので...難しいものです.
この事故を機に,道路行政は明らかにこのような危険性を認識し,安全側に舵を切ったと思います.つまり,危ないところはほとんど『別線対応』=トンネルで回避,というのが大勢になっていったわけです.
あれからまだ20年経ってないんですね...
2014/02/14 14:47:22