雁皮山コンプレックス





雁皮山...難しい地名です.『がんぴやま』と読みます.雁皮というのは,紙の原料になる木のことなんだそうですが...私も何の事だか分りません.

で,左の図は加藤孝幸さん原図によるものですが,ここでピンク色で塗った地質体が今回のテーマです.この場所は,日高町の沙流川と千呂露川の間の山地の部分ですが,地質的には,空知-エゾ帯の神居古潭亜帯に属する地域です.
要するに白亜紀の高圧変成付加体分布地域ですが,代表地質体は地質図で緑灰色に塗色された『岩清水コンプレックス』です.これはまあ,北海道南部地域の神居古潭亜帯にはどこでも見られる高圧変成付加地質体です.

雁皮山コンプレックスは,ご覧の通り超苦鉄質岩体で囲まれたちょっと不可思議な分布をしていますが,もっと特徴的なのは,『変成・変形度が低い』という点です.そのため,伝統的に周りの神居古潭亜帯の地質体から区別されて,『未分離日高累層群』と呼ばれることもありました.




これは,雁皮山コンプレックスの赤色成層チャートです.岩清水コンプレックスのチャートに比べて再結晶度が非常に弱く,生々しいです.実際,ルーペで見ても放散虫殻が大量に含まれているのがはっきりと分ります.

こういったことから,現弘前大学の植田さんをはじめとした何人かの地質屋さんと『日高収束帯研究グループ』共同研究を始めたのが2001年ごろからだったと思います.




雁皮山コンプレックスの構成岩相は,付加体としては至極まっとうなもので,砂泥互層・緑色岩・チャートといった特徴のないものですが,多分にもれず,こういった珪長質凝灰岩も含んでいます.この写真は多少変形が見られますが.




これが砂泥互層です.付加体の砂泥互層としては,非常に変形が弱く,変成・再結晶もほとんど見られないことが分ります.ちょっと驚きです.
で,もっと驚いたのは,この砂泥互層が,『実は高圧変成作用を受けていた』ということです.植田さんらによって行われたフィーグル氏液による処理の結果,明瞭にアラレ石の存在が発見されたわけです(川村ほか,2001).このほかに緑色岩からアルカリ輝石-石英脈も見つかっています.

この結果,非変成・非変形と見えた雁皮山コンプレックスは,周囲の岩清水コンプレックスと同じく,白亜紀高圧変成付加体であることが明らかになったわけです.
ただし,チャートから産する放散虫は,Albian - Cenomanian で,岩清水コンプレックスのそれよりはかなり新しいことも明らかになっています.

ということで話は終わりなわけですが,不思議なのは,変形作用が弱い=片理が生じていないという点です.そんなのフランシスカンだってそうだろ?と言われそうですが,昔ある巡検でご一緒した某構造地質学者によると,高圧変成岩で片理がないというのは,かなり珍しい?貴重?なんだとか.
その詳細を聞くことはできなかったんですが,どうやら上昇(exhumation)過程に関係がありそうだということでした.
雁皮山コンプレックスが超苦鉄質岩体に囲まれた特異な分布形態を示していることと何らかの関係があるのでは?なんて思っています.

2013/05/15 11:31:01


コメント:
 地徳 力 (2013/07/09 07:37:23)
  お久しぶりです.
「雁皮」は「白樺の皮」のことですね.北海道方言なのかしら.
昔は,薪ストーブの焚き付けに使いました.
本文に関係なくてすいません.(^^;

コメント:
 mkawa (2013/07/09 13:54:38)
  地徳さん
ご無沙汰しております.白樺の皮ですか...これは本州人の私にはちょっとわからないことでしたね.千呂露側のペンケユクトラシナイ沢の林道から雁皮山東の尾根筋に上がって,研究グループのメンバーと議論したことを懐かしく思いだしました.

コメント:
 地徳 力 (2013/07/09 17:12:30)
  わたしにとっては,「雁皮=白樺の皮」だったので,本当の「雁皮」とはなにかは,川村さんのブログで初めて知りました.
北海道には,本物の「雁皮」はないはずですので,山の名は,やはり「白樺の皮」が採れるところなのかな,と思います.
ちなみに,アイヌ語で「木の皮」は「ニカプnikap」,白樺の樹皮は「レタッ タッretattat」なので,近くにそういう地名があるかもしれません.


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